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今日も昨日に引き続き、遺体安置所だ。

午前、福島県知事が御来臨された。
俺の直ぐ目の前で深々と頭を下げられ、「皆さん本当に大変でしょうが、心より深く感謝申し上げます・・・!」


昨日、俺にいきなり話し掛けて来たとても気さくで腰の低い50代の男性の方が、急に遺体安置所に見えられて、俺の事を心配して下さった。
名刺を交換したのだが、何と聞けば誰でも名前を知っている東京都内の某有名私立大学文学部の社会心理学科の教授の先生であった。

それにしては、随分と気さくで腰が低い方だ。

「僕は若い頃、恋の悩みを胸の内に抱えていた頃は、心理学者の富田隆先生の本を良く読んでいたんですよ。彼はお知り合いですか!?」
「富田先生は上智大学で私の先輩でしたよ。」

訊けば教授は、御遺体の処理作業で精神的に不調を訴えた自衛官や警察官や関係者の方々の為に心のケアや支援をする為に来たのだと。


本日の御遺体は、2体。
震災後、既に2ヶ月以上経過している御遺体は、やはり悪臭が凄まじく、蛆虫が身体中に湧いている。


仕事は通常通りに時間通りに終わった。

今日は別の地元出身の男性の方に夕食に誘われて、食べた。

外食店はどこも大繁盛しているのだと言う。
こうして外から来たボランティアさんやら業者さんやらで、言って見れば不謹慎かも知れないが震災特需なのだと。
僕が連れて行って頂いた時も、まだ6:00代だったのに店は満員だった。
とっても美味しかった中華料理であった。


本当はルール違反なのだが、俺の避難所宿泊は今日限りだったはずが、ほぼ全職員様の本当に温かい御配慮とご親切により、最終日の5月29日(日)まで置いて頂ける事になった。


とある、男性の被災者で避難者の方は俺に強くこう言った。
「ボランティアっつったってねぇ、ホテルに泊まってヌクヌクして数日だけ来て、その後は郷里の家に帰れて、ちゃんと帰る家や家族が有るって、そんなのなぁにがボランティアだっつーのよっ!!」

東北・福島の独特のイントネーションで彼は俺相手にまくし立て、続けた。

「そこに来るとさぁ。Iさんは俺達と一緒に雑魚寝して寝泊りして、一緒に風呂に入ってくれて、一緒の御飯を食べてくれて、そうやって俺達避難者は、生活を共にして感じて欲しいんですよ!!俺達はもっともっとこう言う事をメディアとかで言いたいんですよ!言えるのなら俺はどこにでも行きますよ!俺達Iさんみたいな人は初めてだぁ!俺達、Iさん見てて立派だなぁと思って見てましたよ!俺はIさんにずっとここで俺達と一緒に生活して欲しいんですよ!そして少しでも俺達の実際の本当の生活を感じてもらって欲しいなぁ。上の人達っつぅのは、ヌクヌクした場所から踏ん反り返って命令や指示ばっかりしてるでしょう!?ふざけんなっつぅの!!!だから遠慮なんてするこた無いんですよ、これっぽっちも!Iさんもっと自分に自信持ちなよ!Iさんにはいつまでもここに居て欲しいなぁ。」


俺は、いつの間にか被災者の方に心を掴まれてしまったのかも知れない。


今日でここの避難所は退去せねばと独り荷造りしている最中、小学校3年生の男の子が俺に突然抱き付いて来た。
「ねぇ、おにいちゃんジュース買ってよぉ~!」

自動販売機のジュースを買って欲しいと俺にねだる。

「あぁ、ちょっと待ってね。オジサンはもう今日でここを出て行かなくちゃ行けないんだ。また後でな。」

俺は荷造りをひとしきり終えた後、少年との約束を守る為に財布を持って、さっき少年が居たらしき場所に戻って見た。

少年は祖父に何やら説教されてる。

だが少年は俺の姿を認めるや否や、「お兄ちゃんシィ~~っ!こっち、こっち!!」
小声で祖父に見付からない場所まで俺を案内する。
そこでジュースの代金を受け取ろうと言う魂胆なのだろう。

「ハイよ、友達の分もな。」

俺は少年に500円玉一枚を渡した。

「うん!有難う御座いまァすっ!!」

暫くして、俺は信じられない事に宿泊を任務最終日までの大幅に延長させて頂いたのだが、今度はジュースを美味しそうに飲んでいるさっきの少年にまた遭遇。

「オジサンね、まだ暫くここに居られる事になったよ。」
「やったぁ~~!!」

少年は俺に飛び付いて来て、抱き付いて離れなかった。


この避難所は、皆何等かの理由で家に帰れない、帰る家が無い人達ばかりだ。
だが、ここには家が有る人でも持っていない何かが確かに有る気が俺にはするのだ。


あ、だらだらブログを書いている内にもう消灯の館内放送だ。
電気も節約しないといけないので、あまり使えないし使わない。

避難所の夜は早い。
21:30消灯。
起床は5:30だ。


さぁ、もう寝よう。

明日の任務は未定なのだが、朝のミーティングで何か命ぜられるのかも知れない。
そう言えばミーティング中も度々余震が有るのだが、所長以下全員もう慣れっこになってしまっている。

地震、雷、火事、親父。

やはり、そのどれも恐いのかな。